長野駅前から、長野の旅のかたちを変える。—令和7年度 NASC実証プロジェクト—
- 3月16日
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令和7年度のNASC実証プロジェクトとして採択された「SnowHUB NAGANO CITY プロジェクト」。プロジェクトの発起人である株式会社フィールドデザインを筆頭に、長野県内の各社が連携しながら推進しています。
2025年12月には長野駅善光寺口から徒歩2分の場所で、旅行者向けに荷物預かりや飲食の提供、貸切タクシー予約などを行うことができる拠点「Travel HUB Nagano City」をオープン。インバウンドで長野を訪れる多くの外国人たちが訪れ、Google MAPのレビューも満点に近い評価が続いている注目の施設となっています。
今回は、参画企業の中から株式会社フィールドデザイン代表・林光太朗さん、株式会社ハイマウントアソシエ代表・安養壌さん、合同会社ポイントクラウドソリューションズ代表・青木勝彦さん(写真撮影時は不参加)、株式会社フィールドプランナー代表・富樫慎さん、Travel HUB Nagano City店長・中西岳人さんの5名が集まり、取り組みの背景と手応え、そして今後の展望を語り合いました。
長野五輪のレガシーを活かすことで見える可能性
——まず、このプロジェクトの概要について教えてください。

富樫:一言で言うと「長野市街地に滞在しながら、飲食やナイトアミューズメントを楽しむ、新しいスキー旅行のスタイルを確立させるための実証事業」です。長野市を拠点に県内の滞在を楽しんでもらいたい、そのためにサービスをワンストップで提供したい、と考えて複数の機能を束ねたHUB型のビジネスモデルを構築しています。

▲株式会社フィールドプランナー代表・富樫慎さん
林:今、白馬や野沢温泉などのスノーリゾートが国内外から注目を集めています。しかし、オーバーツーリズムで宿が取れない、夕食需要への対応不足が出ている、という問題も同時に指摘されています。一方で、長野市内に目を向けると、大型の宿泊施設がたくさんあって、飲食店も充実しています。しかも、1998年の長野冬季オリンピックのときにIOCと連携して交通などのインフラはとても整備されました。そういったレガシーを活用すれば、長野を訪れる旅行者の移動・情報・体験を点から線、線から面へと再編集し、満足度を高めることができると思ったんです。

▲株式会社フィールドデザイン代表・林光太朗さん
——今回いくつもの県内企業が参画されています。それぞれプロジェクトに参画された経緯について教えてください。

安養:私は、実家が宿屋であり、また自分でも 約20年前から白馬でインバウンドの外国人観光客向けにビジネスを行ってきた経験があります。インバウンドの外国人観光客を受け入れるノウハウと、海外旅行会社への営業ルートという2点が、私の強み。声をかけてもらえた時にすぐに加わりました。

▲株式会社ハイマウントアソシエ代表・安養壌さん
青木:私は測量設計やコンサルタント出身。林さんから「地図システムの技術を観光に活かしたい」と相談してもらったのがきっかけです。観光もマーケティングも専門外ではありますが、私たちの技術がそのような分野に展開できる可能性を提示してもらい、ワクワクしながら参画しました。
林:観光案内マップって、スケールがデフォルメされてちぐはぐになっていることが多い。正確な地図とリンクさせて利便性の高いデジタルマップをつくることができたら、観光体験が変わると思ったんです。
富樫:私はいわゆる実業を持たない裏方の人間です。ただ、社会課題を解決するためのプロジェクト組成や補助金の組み立て方には一定のノウハウがあります。公的な支援を受けやすいかたちに事業を設計したり、本当にニーズがあるかを調査したり。そういった役割を担うことで、プロジェクトの力になれたら、と思い参画しました。
異なるアセットを持つ企業が集まり、生まれる拠点
——実証プロジェクトに採択されたことで、2025年12月には「Travel HUB Nagano City」という拠点が生まれました。この施設の立ち上げの背景と、プロジェクト全体への影響について教えてください。

林:もともと「信州産学みらい共創会」という団体に加盟する5社を中心に観光DXコンソーシアムを立ち上げていただき、ツアー造成やレンタルサービス、デジタルマップ作成など、デジタルサービスを中心に現場実証を続けていました。その中で「今日は白馬、明日は野沢温泉、明後日は戸隠」のように、その日の都合や滞在地のコンディションに合わせて、シームレスに行き先を選べる滞在のかたちがあるのではないか、という仮説が見えてきたんです。しかし、そのためには荷物預かりのスペースやレンタルギアの運搬などの課題がある。そこで、デジタルサービスだけでなく、リアルな拠点を立ち上げる必要性を感じ、NASCのサポートも受けながらTravel HUB Nagano Cityを立ち上げました。


▲実際の荷物預かりコーナー。ニーズは高まっているそう。
安養:今回、リアルな拠点が立ち上がったことで、なりふり構わずやらなきゃいけないという状況が生まれました。そこで、取り組むべき課題も明確になりましたし、一致団結感もぐっと高まった気がしますね。

富樫:林さんのリーダーシップによってまとまった側面も大きかったと思います。昨年度は私が全体管理を担おうとしていたんですが、実業を持たない自分には正直難しかった。今年、林さんがすべてをリードしてくれるようになって、うまく回るようになりました。
中西:異なる企業の人たちがこれだけ集まって、1つのことに向かっている。それぞれ自社の利益だけじゃなくて、地域の課題解決に向けてみんなが手を取り合っている。店長として現場から見ていても、新鮮で面白いチームだなと感じています。みんなが長野でいいビジネスをつくろうとしているのが伝わってきて、素晴らしいなと思っています。

▲Travel HUB Nagano City店長・中西岳人さん
林:誰もいいとこ取りをしようとしないのがチームの特徴かもしれません。それぞれの収支を全部オープンにして、自分が勝つためではなくて、みんなで勝つために手を取り合う。それがこのプロジェクトが上手く推進できているポイントのひとつだと思います。
駅前に「スキーヤーが荷物を持って歩く景色」が生まれた
——実際にTravel HUB Nagano Cityを運営してみて、手応えはいかがですか?

中西:Google MAPの評価がすごく高いことには驚きましたね。26件も口コミがついていて、すべて満点(2026年2月末時点)。「素晴らしいスタッフ、最高の場所」というコメントもいただきました。「荷物を預ける」という体験一つ取っても、コインロッカーのように無機質に入れて終わりではなくて、スタッフとの会話が生まれる。「どこかおすすめの場所はありますか?」というやり取りの中で、滞在の楽しみが生まれる。そうしてお客様の旅が豊かになっているのを感じます。
林:もちろん私たちだけの影響ではないかもしれませんが、「駅前でスノーボード持った人があんなに歩いてるよ」と言われることが増えて、長野駅前の景色が少し変わってきているんじゃないかなと思います。荷物を1週間預けて大阪に行ってくる、なんていうお客さんも出てきて、長野を拠点にした旅のスタイルが少しずつ根付いてきている手応えを感じます。
「拠点」ではなく「ラボ」。様々な企業と手を取り合いながら
——手応えを感じている一方で、課題に感じていることはありますか?

▲ディスカッションの様子。チームで集まりながら議論することも多いそう。
林:旅マエの情報発信です。海外のお客様は日本旅行を1年近く前から計画している人も多い。長野駅の観光案内所や駅近のホテルが協力して情報を発信してくれるようになりましたが、それは旅ナカの話。来年に向けて最も大事なのは、来る前の段階でTravel HUB Nagano Cityの存在を知ってもらうことです。
富樫:私が白馬・志賀・野沢で100人以上の外国人スキーヤーにアンケートをしてわかったことがあります。それが、今スキー場に来ているのは、道具も自分で持ってきて毎日朝一から滑る本格的なスキーヤーが多い、ということ。私たちとしては、長野市に滞在しながらその日の雪の状況に合わせてスキー場を選ぶ、もう少しカジュアルな層にも情報を届けたいと考えています。
青木:私が担当しているデジタルマップでは、来場者数や滞在時間、どこの国の人がどこから来てレンタルを利用したかというデータがリアルタイムで積み上がっている手応えを感じている一方で、まだまだ改善の余地があるのも事実。飲食店に行くインセンティブを設定し、外国人を誘客する仕組みなど、地図システムの付加価値を高めていけたらと考えています。
林:プロジェクトをリードする立場としては、収支を合わせていくことも当然重要です。ただ、Travel HUB Nagano Cityを単体でマネタイズするには限界があるという認識も正直あります。だからこそTravel HUB Nagano Cityを「拠点」としてではなく、企業同士が出会って新しいサービスを生み出す「ラボ」として位置づけています。電算さま、TOSYSさま、SATOKAさま、T SPACEさま、ロジドーンさま、ホメテさま 、NAGANO BREWERYさま……プロジェクト開始後、様々な業種の県内企業さまから「一緒に何かやりませんか」と声をかけていただいています。そういうコラボレーションの中から、長野発の新しいサービスが生まれてくると確信しています。

まだまだ広がる可能性。これからの展望について
——今後、取り組んでいきたいことを教えてください。
林:やりたいことはいくつもあります。まずやりたいのが、当日配送サービスです。長野から県内各地へ行く路線バスが混み合っているので、ここで荷物を預けて手ぶらで善光寺や戸隠を観光してもらい、その日のうちに白馬や野沢へ荷物を届けることができれば、旅の自由度がぐっと上がると考えています。もうひとつやりたいことが、グリーンシーズンの活用です。この拠点を「Travel HUB」と名付けたのも、「Snow」だけではウィンターシーズンしか使えない場所になってしまうからです。着物レンタルをやれば、ここから善光寺を着物で歩く人が増えるかもしれない。美味しいフルーツ産地でもある長野県の土地柄を生かせば、フルーツパーラーのような拠点にもなるかもしれない。また、この広いスペースを使えば、地元の飲食店さんに向けたインバウンド受け入れセミナーもできるかもしれない。様々な企業さまと手を取り合いながら、取り組みを広げていきたいですね。
安養:このプロジェクトは、「すでに需要があるからやる」というより、「取り組むことで新たな需要が生まれるからやる」という確信があってチャレンジしている部分もあります。「やれば儲かる」だけのインバウンドじゃなくて、いかに長野を訪れる人と長野にいる人がハッピーなかたちで関わり合えるか。そういった場をつくることも、個人的には念頭に置いています。ここにカフェや飲食スペースがあるのも、地元の仕事帰りのおじさんとインバウンドのお客さんが、言葉の壁があっても「君もスキー好きなの?」みたいな会話が生まれて欲しいから。グリーンシーズンも含めて、海外から長野を訪れる人たちと地域の人たちの交流拠点として、持続させていくことにこだわり続けたいです。


▲Travel HUB Nagano City内にある飲食スペース
青木:私は技術の立場から、このプロジェクトを支えていきたいです。このプロジェクトでやりたいことや取り組むべきテーマに対して、本当に欲しいデータが取れているのか、サービスに付加価値を生むデータになっているのか、そこに関心があります。それができたら、さらに長野の滞在をアップデートできるはず。その可能性に、私自身も期待しているところです。
林:最後に言えるのは、1社だとできることに限界が来る、ということです。得意な会社と組むことでいろんなサービスが生まれる。長野観光の新しいサービスが、ここから生まれてくることが僕のモチベーションです。NASCさんや信州産学みらい共創会さんには、まだ何もない状態のときから後押ししていただいて、本当に感謝しています。これからも、多くのみなさんと手を取り合いながら、長野のあるべき観光のかたちをつくり続けていきたいと思います。

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