
中山間地域の新しい観光モデルを目指して
NASCでは、長野市のスマートシティ推進と新産業創出を支援するため、企業の新規プロジェクトを応援しています。今回は令和6年度の実証プロジェクトである「NAGANO A→SETプロジェクト」において、株式会社ラポーザが中山間地域で実施した体験型観光プログラムの実証実験について、レポートをお届けします。
「NAGANO A→SETプロジェクト」は、スマート農機の開発・シェアリングによる労働生産性の向上と、農園を活用した体験コンテンツの提供を両軸で進めることで、中山間地域における持続可能な産業としての農業モデルの構築を目指すプロジェクトです。 今回の実証実験は、農園を活用した体験コンテンツの提供に関する部分の検証となります。
中山間地域には豊かな自然、歴史、文化がありますが、観光資源として十分に活用できていない現状があります。また、中山間地域の農業は平地に比べて生産量が確保しづらく、傾斜地に圃場があるため作物の生育が難しい側面があります。しかし、その一方で、豊かな自然の中で育てられる農作物などの味や香りは格別で、地域ごとに特色があります。通常の販売ルートでは、これらの農作物などの背景にあるこだわりや価値が消費者に伝わりにくいという課題があります。
そこで、長野市の小田切・吉窪地区をフィールドに、生ハム作り、エコツーリズム、地域食材を使ったランチを組み合わせた観光プログラムの実証実験を行いました。このプログラムを通じて、中山間地域やその豊かな自然、歴史、文化をエコツーリズムや体験コンテンツとして活用し、農産物の魅力を直接消費者に届けることを目指しました。

地域の気候を活かした食文化の創造
2024年12月15日、参加者12名が長野駅に集合し、標高1000メートルの小田切地区にある株式会社SATOKAの生ハム工房へ向かいました。
小田切地区は昼と夜の寒暖差が大きく、付近に川があり、気化熱を活かせる気候特性が生ハムの熟成に理想的な環境をもたらします。SATOKAでは、ヨーロッパの伝統的な生ハム作りの技法と、日本古来の発酵熟成の知恵を組み合わせることで、地域の特色を活かした独自の食文化の創造を目指しています。
代表の酒井さんからは、まず生ハムの基礎知識について詳しい説明がありました。生ハムに適した部位の特徴や、その歴史的背景、さらにSATOKAならではの原木の保存方法まで、丁寧なレクチャーを受けました。その後、実際に骨取りや血抜き、塩漬けなどの工程を体験。熟成室も見学し、SATOKAが開発した独自ブランドの生ハムについても学びながら、生ハム作りの奥深さに触れました。

地域の魅力を掘り起こす
その後、吉窪地区にあるSATOKAのゲストハウスへ移動。ラポーザの荒井さんから、小田切・吉窪地区の地形や歴史、自然環境についての解説がありました。荒井さん自ら、ドローンで撮影した空からの映像も交えつつ、普段は見過ごされがちな地域の魅力を丁寧に紹介していきます。

食で味わう地域の物語
最後は、ディベルテンテの岩田シェフが特別にアレンジしたランチを味わいました。猪肉のジビエなど、地元の食材を活かした料理とそのストーリーを通じて、シェフと参加者の間で活発な会話が生まれました。

今回の実証の成果
「体験」「食」「地域のストーリー」という三つの要素が相乗効果を生み出し、参加者は地域への理解を深め、生産者が伝えたかった更なる魅力や価値を実感。生ハム作りという特色ある食文化体験を通じて、地域の環境や歴史への興味が広がり、さらに地元食材を使用した料理で味わいとして確認できるという、学びと体験の循環が生まれました。
今回の実証から、中山間地域における体験型観光の新しい可能性が見えてきました。特にエコツーリズムについては、文献調査や実地調査に加え、ドローンなどのデジタル技術も活用しながら、地域の魅力を多角的に掘り起こしていきました。例えば、地域の方々でも普段あまり知ることのない地域の地形や城址、古墳群といった歴史的遺構、空から見る地域の景観、さらには鳥類や希少植物といった地域の生物多様性など、新たな観光資源となり得る要素が数多く発見されました。このようなノウハウの蓄積により、他の地域への展開も期待されます。
持続可能な観光モデルを目指して
今後ラポーザは、農園を活用した収穫体験などで実績のある事業者との協働を通じて基盤を固めながら、地域の特色をさらに掘り起こし、魅力ある観光コンテンツを作り上げていく予定です。その過程で、地域の生産者の方々にも徐々に参画していただき、より地域に根ざしたプログラムへと発展させることを目指します。
中山間地域の活性化に向けた新しい観光の形が見えてきた1日でした。
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