地方ならではの分散型自律組織がウェルビーイングを実現する?オンライン勉強会を開催
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新産業の創出と、地域課題の解決を目指すNAGANOスマートシティコミッション(NASC)では、最新の知識や情報を得る学びの場を設置するとともに、継続的にイノベーションを創出するための人財育成・クラスター形成を目的として、会員資格を問わずに参加できるオープンな勉強会を行っています。今回は6月10日に実施した会の様子をお届けします。
分散型自律組織が生み出す新しいコミュニティの力
令和7年度NASCのワーキンググループで掲げているテーマが「健やかな暮らしの実現」です。そのために、勉強会では専門家を招いた講演やディスカッションで新たな知識やアイデアを獲得し、イノベーションを起こすための手法やメンタリティを学びます。今回は、いかにウェルビーイング・ヘルスケア領域におけるオープンイノベーションの事業を創出できるかという観点から、2名のゲストをお呼びして講演とパネルディスカッションを行いました。

1人目のゲストとして登壇したのが山本晋也氏。自らビジネスを立ち上げる傍ら、複数の大学でイノベーションマネジメントや技術経営、政策科学、認知科学、人工知能、デジタルヘルスなどの研究にも従事されています。中央政府各省庁の政策検討委員会委員、特別研究員なども歴任されているほか、共創イノベーションのためのWeb 3.0/DAOの社会実験コミュニティ「DICT( Design, Innovation, Co-Creation, Technology)」の創設者、代表でもあります。
まず山本氏が語ったのがWeb3.0時代に生まれた「分散型自律組織」の可能性です。
「現在テクノロジーがどんどん進化しています。そのおかげで、現在の社会は昔みたいに誰かが中央集権的にマネージメントしなくても、コミュニティ内で個々人が自分たちで物事を決めて動けるようになってきました。これが『分散型自律組織』の考え方です」

このDAOのようなコミュニティのあり方こそ、今回のテーマにある『ウェルビーイング・健やかさ』につながると山本氏は話します。
「『ウェルビーング・健やかさ』って、『自分でやりたいってことをやっているかどうか』がとても重要なんです。しかも、『これが好き』『これをやりたい』という内発的動機に基づいて物事に取り組んでいる人たちの生産性ってものすごく高いんです」
実際に山本氏が社会実験として立ち上げたWeb 3.0/DAOの社会実験コミュニティ「DICT」というコミュニティでは、約3年で100以上のプロジェクトが立ち上がり、1200人以上が参加し、15もの株式会社が誕生したといいます。しかも、驚くことに全社初年度から黒字になっているそう。
「コミュニティのメンバーがお客さんになってくれたり、サポーターになってくれる。そうなると、簡単とは言わないけど、結構な確率で黒字になるんです」
なかでも印象的だった出来事として山本氏が挙げたのは、当時中学1年生だった女の子が語った夢から始まったプロジェクトでした。

「彼女は『私は将来カフェをやりたい』と語っていました。しかも、バイトじゃなくて自分がオーナーになってカフェを開くのが夢だと言うんです。『じゃあ、子どもだけでやってみよう!』と自然発生的に生まれたのがCafé de DICTというプロジェクトでした。大人がサポートしているものの、基本的に企画運営を担っているのは子どもたち。もちろんこのプロジェクトも黒字です」
地域での分散型自律組織は可能か?外部の視点の重要性
その後、質疑応答へ。参加者からは率直な質問が投げかけられました。

「やはり自律分散的な動き・自由度の高い動きというのは、長野市のような地方ではあまりフィットしないのではないかという懸念があります」
この質問に山本氏が答えます。
「地方でも自律分散的な動きの面白い事例がいっぱいあるんです。ただ、上手くいくポイントとして挙げられるのが、県外・市外の人間をコミュニティに入れていること。実際問題、地域内にいる方だけで物事に取り組むのは、気を遣い合ったりして難しい側面があるかもしれません。そんなときに関係人口が機能します。『そんなやり方があるのか』『そんなことできるのか』といった気づきをコミュニティにもたらしてくれるんです」

さらに地方の価値について、山本氏は続けます。
「食や景色、文化など、地方は宝の山です。でも、それらが素晴らしいということに中にいるとなかなか気づきにくい。外にいる人がその価値を発見して、動いて、中の人にも共感が広がっていく。そういうこともあると思うんです」
地域に既に存在するDAO的文化の再発見
後半のパネルディスカッションでは、2人目のゲストとして酒井慎平氏が登壇しました。人口約670人、平均年齢が60歳を超えるという長野市小田切地区で株式会社SATOKAを経営する酒井氏。日本独自の発酵熟成文化を体現する長期熟成生ハムをはじめ、食の価値創造をミッションに多岐に渡る活動をしています。

酒井氏が語ったのは、人口が少なく高齢化率も高い地域だからこそ生まれる分散型自律組織的なコミュニティのかたちでした。
「私の会社があるのは、長野市の中でも特に田舎のエリアです。でも、そうした田舎の文化・社会構成って、意外と分散型自律組織なのかなと思っています。例えば、お裾分けの文化があったり、地域のみんなで草刈りを手分けしたり。お互いのやりたいことをやりつつ、コミュニティに貢献することで、地域全体が成り立っているんです」

そんな酒井氏の発言に山本氏も反応します。
「たしかにDAOやWeb3.0の世界観って、まさに古き良き時代の“村”なんですよね。面倒なことも引き受けながら、それを前提にして『みんなでこの“村”を守っていこう』とします。DAOやWeb3.0と言うと難しそうに聞こえるかもしれませんが、実は日本人が最も得意としたマネージメントモデルなんです」
さらに両者の対話の中で生まれたのが「利他の心」というキーワードです。
「分散型自律組織的なコミュニティで大切なのは、利他の心です。地方にこそ自分の周りにいる人や場をハッピーにさせることで自分もハッピーになるという人がいっぱい集まっています。『目立ちたい』『儲けよう』といった利己的な動機の人たちが排除されていることでコミュニティの力は増すんです」(山本氏)
この言葉を受けて、酒井氏も地域での暮らしで感じているエピソードを紹介しました。
「僕、自分で『蜂蜜をつくりたい』と言って養蜂を始めたものの、蜂に刺されてアナフィラキシーのような症状が出て続けられなくなってしまったんです。でも、そうした状況を地域の人に言ったら、やりたい人が手を挙げてくれました。今ではその方が蜂蜜を取って、地域にお裾分けしてくれています。それだけじゃなくて、養蜂の活動を見て町の路面に花を植えるおばあちゃんも出てきました。結果的に地域に蜂蜜が渡ったり、地域全体が花で彩られていったりするんですよね」

「その人にとって苦手なこと・できないことが、別の人にとってみたら得意で楽しいことかもしれない」と話す山本氏。それぞれの営みを個人に閉じずに越境することで、コミュニティ内で補完していけばいいと話しました。
長野から始まる新しいウェルビーイングな社会
山本氏、酒井氏のディスカッションが盛り上がったところで会は終了。両者の実践から見えてきたのは地域にこそオープンイノベーションの可能性があること、また、伝統的な相互扶助の文化の中に、持続可能で創造的な自律分散的なコミュニティが生まれる余地があるということでした。
NASCでは7月から11月にかけて「健やかな暮らしを実現する新しいアイデア」を共創する全5回のプログラムを開催予定です。食、スポーツ、観光、医療、介護、子育て、働き方など、あらゆる領域でウェルビーイングと掛け合わせた事業創出を目指します。皆さんの「やりたい」から始まる地域共創プロジェクトをお待ちしています。
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